工具が好きすぎるベテランスタッフに電動丸ノコの歴史について教えてもらった

【教えてくれた人】

工具担当ウスイ

中古工具の世界で20年。新しいものが発売されても、今使っているものが壊れない限り、買い換えられないザ・昭和人間。バブル世代には懐かしい響きの三菱車ディアマンテワゴンを20年間乗り続けて、ディーラーの人を困らせた過去を持つ。

工具担当の大ベテラン、ウスイに電動丸ノコの歴史について教えてもらったら、文字数多すぎて編集が大変だった

編集「ねえ、ウスイさん、またなんか工具の記事書いてよ」

ウスイ「いやあ、色々と書きたいことありすぎて、何にしようかとね※△■?!$%・・・・」

編集「じゃあ、よろしくお願いします!(という名の業務命令)」

(翌日)

ウスイ「できました!」

編集「え? 早っ!、そして文章長っ!(この人書き溜めてやがったな・・・)」

ウスイ、丸ノコの歴史に入る前に自分の歴史について800文字の前置きを語りだす…

大工の三種の神器は何ですか? これ試験に出ます!!(何の試験だよ)。日本の大工さんは、木工職人として 300年以上、もっぱら木を刻む仕事をしてきました。大工さんの持ち歩いた工具といえば当然、のこぎり カンナ ノミ という事となります。

これが三種の神器=宝物だったはずですが、プロの現場では、メッキリと登場機会が減ってしまい、私達中古工具を営むものとしても、なかなかお値段のつけにくい商品になっているのは確かです。

ひるがえって、現在の大工さんの三種の神器といえば、丸ノコ・インパクトドライバー・釘打ち機 となります。

DIYでもそうですが、木工をやるのに、真っ先に用意するものは、切る道具=ノコなのは今も昔も変わりません。美しい木肌を出すためにはカンナも用意しなければいけません。組み木をする上でも、ほぞ穴あけるにしても、ノミも欲しくなってきます。

DIYと言えども、少しでもプロの職人さんの技を盗んで、かっこ良く仕上げたいものです。DIYヤーにとっては、今も昔も、三種の神器はあまり変わりないものです。あとは余裕に合わせて電動工具を揃えていけば、もう立派な職人さんです。

私の小学生低学年時代(編集注:1960年代)は、日本は高度成長期真っ盛りで、空き地という空き地には次々と家が建ち、我が家と比較して、とてつもなく綺麗な友達の家も多くなり、ひがみ妬みで歪んだ心の少年となっていくのを感じていました。
だからという訳でもありませんが、休みの日には近所の新築工事現場を見る事が好きでした。(いいな~いいな~ = 金持ちになりたいな~。)
そんな少年だったので、大工仕事も多く見ながら育った事は、今の仕事に少しは活きているのかも知れません。酔っぱらった棟梁さんにも道具の使い方をあれこれ教わったな~。
プロの技にいつも感動し、ちょっとはマネしてあれこれ工作する少年期でもありました。


ウスイ、ようやく丸ノコの歴史について語りだす

日本古来の在来工法で家を建てるにしても、木を切るノコは必須です。しかし今の大工さんのノコといえば手鋸ではなく、電動の丸ノコです。そして、これが現代の大工さんの三種の神器のひとつでもあります。

その電動丸ノコの登場から日本の大工さんが渋々使い始めて半世紀以上も経ち、もともとは大工さんの仕事の負担を減らす目的でもあった、より軽く、より早くという工具の進化は、結果的に大工さんの仕事も技も削いでいく結果をもたらしました。

より早くは、さらに速くとなり、いかにコストを下げ、納期を早めていくかという大目標の中で、大工さんの仕事は、技術そのものよりも効率やコストを優先させられることとなり、憧れの職業だった大工さんの現状を私は悲しむばかりです。

電動丸ノコの歴史はおよそ100年前

電動工具の進化は、本当に加速度的に進歩していき、丸ノコ一つの進化も激しいものでした。

電動丸ノコが発明されたのは1924年との事ですが、それ以前には蒸気駆動の大型丸ノコはあったそうで、それを持ち運びできる大きさに改良したのが始まりだそうです。携帯型電動丸ノコの販売は皆さんも知るあのドイツの大手電動工具メーカー、BOSCH(ボッシュ)です。

日本で電動丸ノコが普及し始めたのが1970年代ですから、日本の大工さんは手鋸で切る精度にこそ、こだわりが強かったのだと思います。言い換えれば、電動工具の不満があった為と言えます。電動工具の不満 とは?

日本で電動丸ノコの普及が遅れた理由とは?

当時は、現在のようなバッテリー型ではなくAC電源で、

まず第一に電源が不便という事。

第二に切れ味が悪く切り口が汚い事。

第三に重いという事。

第四に切りくずが多いという事。

第五に電源コードの取り回しが邪魔だという事。

第六に音がうるさい事。

第七にみんなが同時に電動工具を使うとブレーカーが落ちたり、電圧が下がってしまい、まともに仕事にならない事。

少し考えて見ただけで、これだけのデメリットがありますが、それでも普及し、主流となってきた、その訳もあるのです。最大のメリットは圧倒的に手作業より早い事とそのパワー。
仕事は雑でも、早い(=コストダウンこそが最大のメリット)。

電動工具の進化は、そのデメリットを一つ一つ消し込むことだったとも言えます。

丸ノコの進化の歴史は小型化から

丸ノコの進化の歴史の一番は、小型化です。大きく思い工具は使われなくなります。

現在では、刃の直径が125mmの5インチの丸ノコが主流ですが、一昔前は6インチ、1970年代後半では7インチ(当時の7インチの刃は直径185mm)が主流でした。柱材や丸太を切断するための15インチ(380mm!)なんてものまでありました。なので、当時の大工さんは、大小3種類くらいの丸ノコを持ち歩き、柱材の加工をばりばりしていました。

今では柱材の加工などは全て製材所でのプレカットとなり、現場で柱材の加工はほぼありません。ゆえにより小さい丸鋸だけで現場の仕事は間に合う事となって来て、今では5インチで十分となりました。

丸ノコが普及してからは、悲しいことに事故も多く起きました。安全性能が不十分だったことは否めませんが、当時の時代背景も、経済成長優先で安全は二の次という時代でした。

丸ノコはON/OFFだけのスイッチだけの時代もあり、フルパワーで回転した刃が止まる時には、木に刃先が噛みこんで、いわゆるキックバックという現象が起きます。その回転の反動トルクはとんでもないもので、人間の手では抑えきれるものでもなく、腕ごと反発で持っていかれ、顔を切る、腿を切るなんて事故が多発したのです。

そして、小型化の次に起きた進化は、安全性能、特にスイッチ周りの進化でした。まずは無段変速スイッチとなり、その後、丸ノコの刃を木材から抜き取る時やななめにこじった時に起こるキックバックを防ぐため、スイッチを離すとすぐ回転が止まるようブレーキ付きとなったのです。

そして精密さの追求へ

次なる進歩というか進化は、造作丸ノコの登場です。化粧合板(ベニア材)のような薄い板材を切るのにも最適な精密丸ノコとも言いますが、造作丸ノコという精度の上がった丸ノコの登場です。

当初は丸ノコの底 いわゆるベース板が鉄板からアルミに変わったものが造作丸ノコと呼ばれたりもして、ベースの変形・曲がりが起きにくいだけの事だったが、より精度を求めて直角・平行精度の調整ができ、且つ ベースの刃の出口=刃切り口に開閉可能なシャッターが付いたものを造作又は精密丸ノコと呼ぶようになりました。

刃切り口を極力細める事で、切断時の薄板のバタつきを抑え切り口が綺麗になります。一時はレーザーライナー付の手持ち式丸ノコまで販売していましたね。その時々の特別な機能を追加した精密な丸ノコを造作丸ノコなんて呼ぶので、今では切る対象の木材への切断負荷に応じて落ちてしまう回転数を維持する電子スピコンが付いたものを造作/精密丸ノコなどと呼ぶ事もあり、その定義そのものも変化しています。 電子コントロールは例えば一気にスイッチを握っても、緩やかに回転が上がったり、負荷がかかっても回転が常に安定するよう自動コントロールしたり、ブルートゥースで集塵機のON/OFFを連動させる、便利な機能が追加されていきます。

さらなる小型化への進化

割と最近(おじさんには7年位はごく最近です)深切り丸ノコが発売され、結果 今までと同じ切込みの深さを一回り小型の丸ノコで実現可能となった為、さらなる小型化に成功したとも言えます。

7型の丸ノコが主流だった時代のあと、6型(165mm刃)の丸ノコで事足りる時代となった訳ですが、 6型は5型への小型化に成功しました。深切り丸ノコの登場です。

深切り丸ノコは見た目で瞬間的に解る部品があり、刃を止めるワッシャーが従来の物より、極端に小さくなっている事です。同じ刃でより深く切りこめる理由はモーター位置を見直し、さらにモーター軸と出力軸とのオフセットを僅かに大きくした事によるものですが、刃が深く入り込む分、刃の押さえワッシャーそのものを小さくする必要があった訳です。 押さえが小さければ刃がその分ビビりやすくなり、精度が落ちるという方もおられます。

職人さんも高齢化し、私同様 最近ではなんでも重たく感じてきましたので、工具が軽いという事こそ一番求められる要素なのかも知れません。

この10年の変化が最も急激な変化

他の電動工具同様、急激な進化をもたらしたものは、そう、リチウムイオン電池の登場でした。それまで主流であったニカド電池の丸ノコもあるにはありましたが、ニカド電池の特性上、電池を消費していくと極端に出力が弱くなり、パワーの必要な丸ノコには、お世辞にも向いているものとは言えませんでした。

リチウムイオン電池は、従来の充電池の欠点を大きくカバーしたものでした。電圧も強くなり100Vに比べてもパワーに遜色がなくなった事。同じ大きさ重量で、容量が大幅に増え、連続使用時間が伸びた事。モーターブラシを廃し、ブラシレスモーターとなり、より省エネとなった事。

その進化がすさまじいものだから、中古工具の世界でも今まで売れ筋だったコンセント式の電動工具が突如売れなくなり、買取にて次々持って来られる丸ノコが増えたりもしています。

こうしたコンセント付きの丸ノコは、もはやプロの皆さんが使うものではありませんが、DIYヤーの皆さんには、まだまだ重宝するものとなります。

DIYヤーの皆さんにおすすめするのは、コード付きでもここ15年位までのもの。さらに言えば、日立・マキタ・リョービのブランドであれば間違いありません。

おそらく通常のDIYであれば、そこまで登場機会もないかと思いますので、このあたりが価格もお手頃でちょうどよいのではないでしょうか。

以上、自称ウスイ工務店でした。

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